【LIFEUPDATE】フェラーリには勝てない。1900億円の絶望を越えた男の「野生の勘」と生存戦略
LIFE UPDATE LETTER Vol.345 Mar 15, 2026
いつもお読みいただき、ありがとうございます。早川洋平です。
ここ数日、新しい読者の方がふっと増えました。星の数ほどある言葉の海の中から、この小さな港を見つけてくださったご縁に、心から感謝いたします。
インタビューを生業にして20年。国内外のトップランナーや市井のプロフェッショナル、そして戦争を生き抜いた方々まで、3,000人を超える人生と向かい合い、ひたすらに「人生の問い」を投げ続けてきました。
この『LIFEUPDATE LETTER』は、そんな数え切れない対話の熱や、日々の静かな歩みの中からすくい上げた「自分本来の生き方(Bサイド)」へと思考をチューニングするためのヒントを、一通の手紙に束ねてお届けする場所です。
週末の朝のコーヒーとともに、あるいは夜の静寂の中で、ゆっくりとお読みいただければ幸いです。
さて、今週は少し時計の針を戻し、ゴールデンウィークの只中に急遽生まれた、ある特別な時間の記憶から始めましょう。
【JOURNAL】フェラーリには勝てない。1900億円の絶望を越えた男の「野生の勘」と生存戦略
世間がどこかゆったりとした空気に包まれる連休の中、僕は急遽決まったある収録に臨んでいました。それは、これまでのインタビューの中でもひときわ熱を帯びた、そしてどこか清々しい風が吹き抜けるような時間でした。
お話をうかがったのは、日本No.1タクシーアプリ「GO」の会長であり、日本交通の3代目である川鍋一朗さん。そして、僕がプロデュースする『神グルトラジオ』でおなじみ、元がんセンター長であり還暦にしてヨーグルト屋を起業した林和彦先生です。
日本交通本社(紀尾井町)で行われた特別鼎談。川鍋さん(左)、林先生(中)。筆者(右)
慶應義塾大学を卒業後、アメリカでMBAを取得し、マッキンゼーへ。そして日本交通のトップへ。川鍋会長の経歴を文字で追えば、誰もが羨むようなエリート街道のド真ん中です。 しかし、お二人が交わした対話の中心にあったのは、スマートな経営戦略などではなく、血の滲むような「泥臭さ」と、生き残るための「野生の勘」でした。
対談の中で、僕は川鍋会長にこんな問いを投げかけました。 「以前、別の場所で『ファミリービジネスの3代目は、得てして上品になって野生の勘を失いがちだ』というお話をされていましたよね。でも、僕の感覚としては、川鍋さんは全く野生を失っていないように思うんです。それはなぜなんでしょうか?」
川鍋会長は2000年、祖父の会社である日本交通に入社した途端、1,900億円という絶望的な負債に直面します。普通の人間なら、そのケタを見ただけで押し潰されてしまうような異常なリスクです。 その絶望的な状況下で、彼がどうやって野生を保ち、あるいは取り戻したのか。その答えは、彼が「暗黒時代」と呼ぶマッキンゼーでの経験にありました。
「スーパー頭の良い人たちの中で自分のポジショニングを常に測りながら、頭のキレでは絶対に勝てないと気づいたんです。彼らはフェラーリみたいなもので、ヒョンヒョンと先へ行ってしまう。自分は最高速度150キロぐらいしか出ない。でも、その代わり『走り続けること』はできる。そうやって自分なりの価値の出し方を学べた気がします」
フェラーリのような頭脳には勝てない。だからこそ、自分の足で泥臭く走り続けることを選んだ。 コンサルタント的な机上の空論を振りかざすのではなく、自らタクシー乗務員となり、現場に出ることを選んだのも、そうした「自分なりの価値の出し方(=野生)」を身体で知っていたからでしょう。
この「野生」という言葉について、僕は最近、よく歩きながら考えます。 昭和の末期に生まれ、平成、そして令和と時代を歩いてきて、僕たちは驚くほど平和で便利な社会を手に入れました。テクノロジーは進化し、手のひらのスマートフォンひとつで、世界中の知識や「最適解らしきもの」に瞬時にアクセスできます。 それは決して悪いことではありません。むしろ、素晴らしい進歩です。
でもその一方で、僕たちは「ここ一番で生き残るための野生」を、少しずつ手放してきているような気がしてならないのです。 失敗しないように、傷つかないように、効率やコスパばかりを事前に計算し、シミュレーションを重ねて、結局は「動かない」という選択をしてしまう。頭でっかちになって、身体の底から湧き上がるような直感や生命力を、どこかに置き忘れてきてしまったのではないでしょうか。
では、現代を生きる僕たちは、どうすればその「野生」を取り戻すことができるのか。 僕は、テクノロジーを遠ざけて山に籠もるのが正解だとは思いません。 僕自身のささやかな抵抗であり実験として、最近はテクノロジーをフルに使い倒しながら「とにかく移動する」ことを心がけています。最新の骨伝導イヤホンを耳にかけ、AIの音声入力機能を立ち上げ、あえて外に出て、ひたすら歩き、動き、ブツブツと喋り続ける。
身体を動かし、風を感じながら、自分の内側にある思考をテクノロジーの器にぶつけていく。そうやって「身体性」と「テクノロジー」を極限まで突き詰めて掛け合わせることで、鈍っていた自分の中の野生が、少しずつ目覚めていくのを感じるのです。
林先生もまた、還暦にして地位も名誉も退職金も捨て、3億円の借金を背負って「ヨーグルト屋」としてゼロから現場に飛び込んだ、紛れもない「野生の人」です。 1,900億と3億。ケタは違えど、異常なリスクを背負い、自らの足で泥臭く現場を歩き続けてきた二人の男たち。 彼らの対話は、無意識のうちに守りに入りそうになっている僕たち大人の心に、静かに、けれど強烈な火をつけてくれるはずです。
スマホを置いて現場に出るか。あるいはスマホを握りしめたまま、自分の足でひたすら歩き続けるか。 やり方は人それぞれですが、彼らの声の熱量ごと味わえる本編の音声と映像から、皆さんも自分なりの「野生を取り戻すヒント」を見つけていただけたら嬉しいです。
■YouTube(映像/エッセンシャル版)
■ノーカットのフルバージョン(前後編)はPodcastで!
川鍋さんの「30年後」を見据えた経営哲学や、マッキンゼー時代のさらなる暗黒エピソード。そして、サーフィンやご家族との時間を大切にするプライベートな素顔(娘さんとの買い物の話など)、YouTube版には入りきらなかったトークの全貌はPodcast「神グルトラジオ」で配信中です。
前編 │ 後編
【NEWS】元がんセンター長の「マクアケ」と、究極のプレーン
今回の鼎談にも登場した林和彦先生が、がん患者の方々の雇用を生み出すためにスタートした「神グルト」プロジェクト。そのさらなる進化に向けた挑戦が、クラウドファンディング『Makuake』で続いています。
実は僕もさっそく、待望の「無糖(プレーン)」を応援購入しました。支援の形でありながら、それ以上の価値が届くリターンが用意されています。ぜひ、彼らの熱い想いに触れてみてください。
【LATEST INTERVIEW】五感を揺さぶり、「野生」を呼び覚ます本物の空間
冒頭のJOURNALで「現場や生身の体験が大事」というお話をしましたが、僕にとってまさに五感が研ぎ澄まされる、とっておきの「現場」をご紹介させてください。
神楽坂。その石畳の路地裏に、世界中のVIPや同業のシェフたちがわざわざ足を運ぶ天ぷらの名店があります。創業から半世紀近く続く「天孝」です。
先日公開したインタビューの主役は、その二代目店主である新井均さん。
「老舗の天ぷら屋」と聞くと、僕たちはつい、少し気難しい職人が黙々と揚げ場に立つ、静まり返った空間を想像してしまいますよね。でも、新井さんはそんな僕たちの固定概念を、小気味よい音を立てて揚げていく天ぷらのように、カラリと裏切ってくれます。
「若い人にも、本物の天ぷらを知ってほしいから」 そんな想いから新井さんが時折開催するのが、驚くようなゲリラランチ。 なんと、立派なブラックタイガーのサービス天丼にしじみ汁とお新香までついて、全コミで2,200円。あるいは、特大エビ天を贅沢に巻いた恵方巻きにお刺身がついて、これも2,200円……。 正直に言って「赤字ですよ(笑)」と笑う新井さんの遊び心には、老舗という看板を背負いながらも、常に新しい「出会い」を愉しもうとする自由な精神が宿っています。
新井さんにとっての料理とは、単なる「揚げ物」ではなく、「目の前の人との対話」そのものです。 客席の空気を感じ、緊張をほどき、一期一会の時間を整えていく。そのライブ感あふれる哲学は、天ぷらという枠を大きく超えて、僕たちの仕事や人間関係、そして「伝統を守りながら、いかに自分らしく変わるか」という問いに対して、鮮やかなヒントを与えてくれます。
連休のほんのひとときに、よかったらコーヒーでも飲みながら、この粋で熱い対話に耳を傾けてみてください。
▼ 【後編】「料理は、対話。」新井均さん(神楽坂「天孝」店主)
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【FOR YOUR UPDATE】自分の「Bサイド」を生きるために
社会や他人の期待に応えるために割り当てられた人生を「Aサイド」とするなら、自分が心から心地よいと感じ、嘘偽りなく生きられる本来の人生が、その裏側にある「Bサイド」です。
一人でモヤモヤと考えていると、視野が狭くなり、自分の決断が「逃げ」のように思えて自信が持てなくなることがあります。僕が長年続けている対話の活動は、そんな皆さんの思考を整理し、本来の人生へと歩みを進めるためのサポートをしたいという一心から生まれました。
■ 1. 早川洋平・著書『会う力』(新潮社)
極度の人見知りだった僕が、なぜ2,000人を超えるトップランナーに会い、人生を変えられたのか。単なる会話術ではなく、相手と自分を深く結び直し、望む未来を手に入れるための「一生モノの土台」の築き方を一冊に凝縮しました。
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■ 2. 『会う力』養成講座(オンラインスクール)
「情報」はAIが教えてくれますが、「信頼」は生身の人と人でしか築けません。僕が20年かけて磨いてきた、相手の懐に入り本質を引き出す「問いの技術」と「聴く哲学」を、6ヶ月かけて実践の中で身につける場所です。
▶ 講座の詳細・受講生の声を見る
■ 3. LIFE UPDATE SESSION(個別対話セッション)
プロインタビュアーの僕が、1対1の対話を通してあなたの言葉の奥にある本質を鏡のように映し出し、自分でも気づいていなかった「次の一歩」を見つける濃密な時間です。立ち止まっている感覚がある方へ。
▶ セッションの詳細を見る
【UPDATE MEDIA】週末、思考の解像度を上げるエッセンス
僕がプロデュースする各番組から、日々の視点をアップデートする最新回をお届けします。
■【第332回】投資もAIも怖い時代にお金の不安とどう生きるか──大人の放課後ラジオ
誰もが胸の奥に抱える「お金の不安」。実は、資本主義がその不安を煽ることで利益を得ているとしたら? 今回は元ゴールドマン・サックスの金利トレーダーが書いた話題書『お金の不安という幻想』をフックに、石田衣良さんが現代人の不安の正体を解剖します。「自己投資という名の詐欺ビジネス」への痛烈な警鐘や、「会社には“半身”でコミットして生き延びる」という超・現実的な生存戦略まで。将来への焦りを手放し、したたかに生き抜くための必聴回です。
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■【第170回】自腹1万円で何買った!? 家族で白熱する面白グッズ&出先で使える神家電──すぽきゃすTV
今回は「自腹1万円で試す健康ガジェット」特別企画! ヨドバシカメラで石崎支配人が見つけてきたのは、思わず大人が童心に帰って白熱してしまう「デジタル握力測定器」と、出先でもあっという間に新鮮なプロテインスムージーが作れる「コードレスマイボトルブレンダー」でした。遊び心と実用性を兼ね備えた最新ガジェットを、スタジオで実際に使いながら楽しくレビューしています。週末の家族の団らんや、これからの季節のお出かけのお供に。皆さんの日常にも、ちょっとしたワクワクを取り入れてみませんか?
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■【第486回】断れない私は、どう生きればいい?──教えて!八郎先生
「人から頼まれると断れず、後で自分が苦しくなってしまう」。そんな優しい性格ゆえのお悩みに対し、北川八郎先生は「『みじめな善意』に陥ってはいけない」と語ります。自分を守るための境界線(線引き)の引き方から、人間関係をグッと楽にする「ぼんやりとした好意」の持ち方まで。すべての人に好かれようとして自分をすり減らしてしまう方に、ぜひ聴いてほしい温かいアドバイスです。
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■【第30回】「同じヨーグルトを食べ続けると腸が慣れる」って本当?菌を変えるべきかの真実──神グルトラジオ
「ずっと同じヨーグルトを食べていると、腸が慣れて効果が薄れるのでは?」──そんな疑問に、元がん専門医の林和彦先生がズバリ回答します。健康オタクが陥りがちな「サプリメントで足りないものを補う」という足し算思考の落とし穴と、腸活の本当のゴールについて。情報が錯綜する時代に、自分自身の身体の「上流」で何が起きているかを見極めるための、本質的な視点をお届けします。
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■【第10回】満たすより、澄ませる。情報過多な時代を生き抜く「引き算の養生」──Voice Voyage
SNSや広告から次々と流れてくる「足し算の健康法」に疲れていませんか? 漢方家の櫻井大典さんが提唱するのは、あれこれ足すのではなく、食べ過ぎや刺激を「減らす(澄ませる)」という究極のセルフケア。「誰かがやっている健康法があなたに合うとは限らない」。自分だけの心地よさを見つけるための、優しいヒントが詰まっています。
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■【第2回】人生のターニング・ポイント ── これからの旅 - Life Journey Talks
退職や人生の後半が気になり始めたとき、私たちの前にはまだ見ぬ道が広がっています。元信託銀行マンで現リタイアメントFPの深谷康雄さんが、ゲストの人生の「地図」を広げる新番組。第2回の今回は、深谷さんが僕(早川)に逆インタビュー。なぜ新聞記者を辞め、ポッドキャストという未開の地に飛び込んだのか? 起業や挑戦に迷っている方の背中を押すエピソードです。
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今週も最後までお読みくださり、ありがとうございました。
GO川鍋会長の「フェラーリには勝てないから、走り続ける」という言葉。僕自身も最近、あえて外に出てブツブツと喋りながら歩き続ける(音声入力する)日々の中で、妙に腑に落ちています。
頭で考えるだけでなく、泥臭く現場に出ること。あるいは『天孝』さんのような、職人の本物の技と空間に「生身」で触れること。テクノロジーが極まる時代だからこそ、こうした五感を震わせる体験が、僕たちの「野生」を呼び覚ましてくれるのだと思います。
皆さんは今週末、どんな「現場」に足を運びますか? どうぞ、すばらしい週末をお過ごしください!
早川洋平
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WIRED創刊編集長ケヴィン・ケリー × 早川洋平
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