【NL購読者様特典】ケヴィン・ケリーさん×早川洋平対談全文
未来をつくる「変わり者」の哲学
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WIREDの創刊編集長として知られ、テクノロジーと人間の未来を探求し続けるケヴィン・ケリーさん。彼の最新刊『Excellent Advice for Living』(邦題『生きるための最高の知恵』)を軸に、"変わり者"であることの重要性から、失敗の捉え方、そして人生の哲学まで、幅広いテーマについて語ってもらった。これまでのテクノロジーに焦点を当てた著作とは異なり、『Excellent Advice for Living』は人生の指針となる450以上の短い格言を集めた、より個人的で普遍的な一冊である。当初はTwitterで発信していた言葉が、多くの人々の共感を得て一冊の本となった。72歳になった今も世界を歩き続ける彼の言葉には、時代や環境に左右されず自分らしく生きるヒントが詰まっている。(2024年8月対談)
【ケヴィン・ケリー】けう゛ぃん・けりー/テクノロジー思想家・作家 1952年ペンシルベニア州生まれ。『WIRED』誌の創刊編集長として知られる。アジアを旅した経験をもとに1984年に『ホール・アース・レビュー』の編集者となる。1993年に『WIRED』誌を共同創刊。著書に『テクニウム』(みすず書房)『〈インターネット〉の次に来るもの』(NHK出版)、『COOL TOOLS』など。最新刊は『Excellent Advice for Living』〈邦題『生きるための最高の知恵』(日経BP社)〉。現在は『WIRED』誌のシニア・マーベリックとして活躍し、カリフォルニア州パシフィカに在住。テクノロジーの進化と人類の未来について独自の視点で発信を続けている。
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【早川 洋平】はやかわ・ようへい/新聞記者等を経て 2008 年キクタス株式会社設立。羽生結弦さん、吉本ばななさん、髙田賢三さんら世界で活躍する著名人、経営者、スポーツ選手等ジャンルを超えて対談。13 年か らは海外取材を本格化するいっぽうで、戦争体験者の肉声を世界へ発信するプロジェクト『戦争の記憶』にも取り組む。公共機関・企業・作家などのパーソナルメディアのプロデュースも手がけ、配信番組の総ダウンロード数は毎月約 200 万回。累計 3 億回を超える。『We are Netflix Podcast@Tokyo』『横浜美術館「ラジオ美術館」』『石田衣良「大人の放課後ラジオ」』などプロデュース 多数。WEBサイト
【対談目次】
未来をつくる「変わり者」の哲学
霧の街から、世界へ
偶然から生まれた人生のアドバイス集
災難が冒険に変わる瞬間
プロの失敗と回復の技術
人生の3分の1を過ごす場所
50年着続ける服とユニフォーム化の哲学
変わり者であることの重要性
発明と学びの新たな形
現代社会の課題:ワーキングプアとUBI
人生の3つの重要な教訓
日本との深い繋がり
日本の未来への提言
AIと人間の未来
最高のガジェットと100年後の未来
対談は下記からもご視聴いただけます。あわせてお楽しみください。
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■ 霧の街から、世界へ
早川:お会いできて光栄です。あなたとあなたの作品の大ファンなので、今日は少し緊張しています。
ケヴィン:洋平さん、ありがとうございます。私もお招きいただき光栄です。緊張しないで大丈夫ですよ(笑)
早川:ありがとうございます。お会いできるのを楽しみにしていました。何とお呼びすればよろしいでしょうか。
ケヴィン:ケヴィンでいいですよ。中国では、私のニックネームはKKです。だから、KKでも呼んでくれればいいです。
早川:分かりました、ケヴィン。今日はお時間を取ってくださってありがとうございます。新しい本の日本語版も楽しみにしていました。今はご自宅にいらっしゃるんですか?
ケヴィン:そうです。今はカリフォルニア州パシフィカの自宅にいます。サンフランシスコの近くの海岸沿いで、今日はとても美しい晴れた午後です。
早川:それは素敵ですね。日本は朝でも非常に暑いのですが、そちらの気候はどうですか?
ケヴィン:パシフィカは霧が多いことで有名なんです。私の故郷は時々「霧の街」と呼ばれるほどです。通常、夏の間は一日中霧がかかっていますが、今日は霧が晴れていてとても美しいです。明日の朝にはまた霧がかかるでしょうね。気温は15度から18度くらいです。
早川:それは涼しいですね。日本よりもずっと過ごしやすそうです。夏は好きですか?
ケヴィン:実は私は秋が好きなんです。私が住んでいる場所は一年中秋のような気候です。年間を通してずっと秋のような感じで、気温は毎日15度から18度くらいです。
■ 偶然から生まれた人生のアドバイス集
早川:それは理想的な気候ですね。では、最新刊『Excellent Advice for Living』についてお話しを聞かせて下さい。まずは表紙です。日本語版はオリジナル版とは全く違っていますね。
ケヴィン:そうですね。オリジナル版の装幀はワイアード誌っぽいですが、本書の内容を鑑みると日本語版のデザインの方がふさわしいかもしれませんね。
早川:この付箋の量を見てください(笑)私の20年のインタビュアーキャリアの中で、これほどまでに付箋を貼ったことはありませんでした。正直に言うと、本の中のすべてのフレーズがとても価値があって、このインタビューでどれについてうかがうか選び出すのに10時間以上かかりました。まず最初にこの質問をさせてください。なぜ今回、これまでのようなテクノロジーに関する本ではなく、違うテーマの本を書いたのでしょうか?まだお元気で、若々しく遺言を書くには早すぎます(笑)。新たなテクノロジーについての本を書くこともできたはずですが。
ケヴィン:良い質問ですね。実はこの本は偶然の産物なんです。
早川:偶然なのですか?
ケヴィン:そうなんです。最初は「子どもたちに向けたちょっとしたアドバイス」をツイートしていただけなんです。でもそれを続けているうちに、どんどん広まって急速に拡散し始めたんです。それを何年も続けるとさらに広まっていきました。そして、5年ほど経った時に、これらをすべて一つにまとめて子どもたちに渡したいと思ったんです。つまり、すでにオンラインで公開していたものを一冊にまとめて、誰かに手渡せる形にしたかったんです。
■ 災難が冒険に変わる瞬間
早川:そうだったのですね。では、さっそく本書の内容に入っていきたいと思います。まず最初に、特に感銘を受けたフレーズがオリジナル版の35ページにあります。日本語版だと70番目の言葉です。「休暇 + 惨事 = 冒険」と書かれていますが、ケヴィンさんご自身にとって最も思い出深い「冒険」は何ですか?
ケヴィン:そうですね、妻と一緒にヨセミテ国立公園に行ったときのことが思い出されます。朝、湖の周りを散歩しようと歩いていたんですが、ミラー湖のあたりで間違ったトレイルに入ってしまい、ヴァーナル滝までの道に出てしまったんです。この道はかなり険しく、ほぼ垂直に登るような感じです。その時、私たちは「これは失敗ではない、これは冒険だ」と言い続けていました。そう、災難と旅行が組み合わさると冒険になるということです。
つまり、同じ出来事でも見方を変えれば楽しむことができるんです。考えてみてください。旅の話をするとき、最も面白い話というのは何かトラブルがあったときの話ですよね。何も起こらなかったという話はあまりしませんよね。パリに行って、飛行機は時間通り、ホテルも良くて、食事も最高だった。そんな話はつまらない。
早川:その通りですね。
ケヴィン:でも、もしパリに行って飛行機が10時間遅れて、雨の中タクシーに乗らなければならなくてびしょ濡れになり、荷物もなくなった。そんな話の方が面白いですよね。それが冒険というものだと私は思うのです。冒険というのは山に行って荷物を失くしたり、食べ物が足りなくなったり、橋から落ちそうになったりすることです。だから私は災難が起こった時には、これこそ格安の冒険だ!と思うんです。
早川:本当にそう思います。ところで、ヨセミテについてですが、私は20年以上前に行ったことがあるのですが、今はどうなっていますか?20年前と比べて変化はあるのでしょうか?
ケヴィン:山や草木の美しさは変わりません。でも、今は入場するのに許可証が必要なんです。人の数を制限しているので、昔よりも人が少なくてより静かに楽しめますよ。私たちは1日トレイルを歩きましたが、その間に会ったのはたったの5人くらいでした。特に夏の日中は規制が強化されていて、そのおかげで人が少なくなりより快適な体験ができます。また、車を使わずにシャトルバスで移動するようになっています。
■ プロの失敗と回復の技術
早川:ありがとうございます。次の質問ですが、オリジナル版の21ページ、日本語版だと40番目の「プロだって素人と同じくらい失敗している。違いは、失敗しても慌てず騒がず立ち直る方法を身につけていることだ」というフレーズに強いインスピレーション得ました。時々、人生でポジティブな気持ちを保つのが難しいことがありますが、ケヴィンさんはどのように立ち直っていらっしゃいますか?
ケヴィン:今オリンピック(対談当時)が開催されていますが、オリンピック選手も失敗をします。プロフェッショナルなアスリートたちでもです。それでも彼らは、失敗があっても動じず、気を乱されないようにしています。彼らは失敗を予期し、それにどう対処するかを学んでいるんです。
また、私の場合でいえば、講演を何度も行っていると、いつか必ず何かがうまくいかなくなる瞬間が来ることを知っています。電気が切れる、コンピュータがクラッシュする、何かしらのトラブルが起こるんです。その時、どう対処するかが重要です。講演を止めずに、他の人が修理するのを待ちながら冗談を交わしたり、話し続けたりする必要があります。
つまり、トラブルが起きたときにどう対処するかを練習することが大切なんです。たとえば、パイロットが飛行機を操縦する時、様々な災害シナリオをシミュレーションして練習します。エンジンが停止したらどうするか、燃料が切れたらどうするか。それらを練習することで、実際に起こったときにも冷静に対処できるようになります。
ですから、最悪のケースを想定してリハーサルを行うことが大切です。講演中に電気が切れたらどうするか、そういった状況に備えて練習するのです。また、小さなことでも同様です。たとえば、私は家具やアート作品を作ることがありますが、寸法を間違えて材料を切ってしまうことがあります。その時、どうやって挽回するかが重要です。
プロの職人を見ていると、彼らも頻繁にミスをしますが、それがひどく見えないのは、うまく挽回するためのさまざまな工夫がこらしてあるからなんです。
プロサッカー選手や歌手、コメディアンも同じです。彼らも時にはミスをしますが、それをうまくカバーする方法を知っています。
教師が生徒にできる最も強力なことの一つは、ミスからの回復方法を教えることだと思います。生徒が本当に学びたいのは、どうやってミスから立ち直るか?でしょう。なぜなら、必ずミスをすることがあるからです。
早川:わかります。とはいえ、ケヴィンさんほどのプロフェショナルになると、たとえば50年前と比べて、もうあまりミスをしないのではないですか(笑)
ケヴィン:いや、そんなことはありません。もし私が25年前と全く同じことをし続けていたら、確かに同じミスはしないかもしれません。しかし私はこう思うのです。常に新しいことに挑戦している人は、いつまでも若々しい。彼らはハードルを上げて失敗するかもしれないことを続けているんです。だから、私の人生の目標は「新しい失敗をすること」です。失敗しないことではなく、素晴らしい失敗をすることです。これまでにやったことのない新しいことに挑戦し、その過程で失敗することです。だからこそ、日々新しい失敗をしてそれを克服する技術を身につけたいのです。
早川:つまり、毎日新しい失敗をすることがあなたの生き方なんですね。
ケヴィン:そうです。早川さんは今日は新しい失敗をしましたか?
早川:今日はまだ始まったばかりですが、この会話の中でたくさんの英語の失敗をしていることは間違いありません(笑)。ケヴィンさんが優しいのでカバーしてもらっていますが……。
ケヴィン:ははは(笑)。ぜひ、今日新しい失敗をすることを目標にしてください。ミスや失敗は進歩の証です。それは学びや成長のサインです。これらをなくそうとするのではなく、それを習慣にするべきです。もちろん、ミスは小さく頻繁にするのが理想です。小さな失敗を重ねていくことが重要です。失敗することを避け続けていると、最終的に大きな失敗をすることになりかねません。ぜひ定期的に小さな失敗を重ねていくことをおすすめします。
■ 人生の3分の1を過ごす場所
早川:ありがとうございます。トライしてみます。次の質問に移りたいと思います。こちらの質問はぜひ聞きたいことなんです。オリジナル版の194ページ、日本語版の419番目の言葉、「私たちは人生の3分の1の時間をベッドで過ごす」「そして、別の3分の1時間は椅子に座って過ごす」「よいベッドとよい椅子には投資するだけの価値がある」。とても興味深いです。今使っているベッドや椅子について具体的な情報を教えていただけますか?
ケヴィン:喜んでお答えしたいのですが、残念ながら具体的な名前は覚えていません(笑)。ずいぶん前に購入したものなので。でも、例えばHerman Millerのようなブランドはお金をかける価値があると思います。Herman Millerのアーロンチェアはとても有名ですが、私は具体的な推奨アイテムは持っていません。
ただ、アメリカには非常に優れたレビューサイトがあります。ニューヨークタイムズにある『Wirecutter』というサイトです。そこでは、ベストなマットレスや椅子について詳しく調査し、最良の選択を提案してくれます。私はそのサイトを頻繁に利用しています。ぜひチェックしてみてください。
早川:予想外でした。
ケヴィン:実は、私は2つのレコメンデーションサイトを運営しています。一つは『Recommend』と言います。毎週何かを推薦するニュースレターを運営しています。そして『Cool Tools』という、20年以上にわたって毎日ツールを推薦しているサイトも持っています。だから、私はお勧めアイテムについて多くを知っているし、『Wirecutter』が非常に信頼できることも理解しています。
ベッドや椅子で間違った選択をすることはありますが(笑)、時間をかけて選んだものであれば、間違えたとしても新しいものに買い替えれば良いのです。一生それに縛られるわけではありません。ベッドや椅子のようなものは、人によって良いと感じるものが違うことが多いので、実際に試して自分に合ったものを選ぶことが大切です。だから、ミスをしても大丈夫なんです。ミスは簡単に修正できるんです。
早川:どれくらいの期間その椅子を使っていますか?
ケヴィン:もう20年近くですね。
早川:20年も?同じ椅子を?
ケヴィン:はい、そうです。
早川:では、ベッドはどうですか?
ケヴィン:ベッドは自分で作りました。35年前に作ったんです。
早川:ご自身で作られたのですか!?
ケヴィン:はい、自分で作りました。
早川:すごいですね。どんな感じですか?
ケヴィン:とても美しいですよ。私と妻のイニシャルが刻まれています。結婚した時に作ったんです。35年前のことです。でも、マットレスは新しいものに替えていて、非常に固いマットレスが好みなんです。ベッド本体は私が35年前に作ったものです。
■ 50年着続ける服とユニフォーム化の哲学
早川:驚きました。お家の中で一番古いものは何ですか?それはおそらくケヴィンさんよりも年上なのかと推測しますが(笑)。
ケヴィン:まず、たぶん家自体が私よりも古いですね(笑)。父から受け継いだ小さなものもいくつかありますが、高校時代の服もまだ持っています。冬用のダウンジャケットなんかは高校時代から使い続けています。冬用のスカーフも持ち続けています。40〜50年ほどでしょうか。
早川:同じ服を50年も!?それはすごいですね。
ケヴィン:そうです。50年間、着続けている服もあります。
早川:それは素敵ですね。
ケヴィン:私は古い服が好きで、穴が開くまで着るんですよ。
早川:その逆というわけではないですが、最近買った新しい服はありますか?
ケヴィン:あります。最近は妻に新しい服を買ってもらっています。最近買うシャツは全部同じ色で、15枚くらい同じシャツを持っています。同じ見た目のシャツですね。着るものについて悩む必要がないように、ユニフォームのような感覚で毎日同じ見た目の服を着ています。講演をするときは、カラーのついた青いシャツを着ています。それを10枚持っています。それらのシャツは全部同じ見た目です。
早川:青色なんですね。
ケヴィン:そうです。私のジャケットは黄色なのですが、黄色いジャケットも3着持っています。それもユニフォームですね。
早川:それは良いですね。実は私も最近、毎朝服を選ぶのが面倒で、ケヴィンさんのようにユニフォームとして新しい服を揃えたいと思っています。素敵なアドバイスをありがとうございます。
ケヴィン:何を着るか悩まないことは良いですよ。それに、私はロゴのついた服は一切着ません。
早川:そうなんですか?
ケヴィン:そうです。帽子もジャケットもロゴはありません。
早川:それは面白いですね。でも、なぜですか?
ケヴィン:服のブランドが私にお金を払って宣伝を頼んだわけではないので、私はブランドのロゴが入った服を着るつもりはありません(笑)。
早川:なるほど、それは興味深い視点ですね
■ 変わり者であることの重要性
早川:オリジナル版の145ページ、日本語版だと310番目にある「大ヒットを目指すためのコツは風変わりな行動をとること。日々、変わり者であり続けよう」という部分にとても感銘を受けました。多くの読者がケヴィンさんの変わった行動や習慣について知りたがっているかもしれません。何か変わった行動や習慣をとっていますか?
ケヴィン:まず一つは、ロゴのついた服を着ないことです。あとは毎日同じ服を着ることとか......(笑)
早川:それ以外でお願いします(笑)
ケヴィン:そうですね......もう一つの変わった習慣は、他の人があまり目を向けないものの写真を撮るのが好きなところかもしれません。多くの人がものを集めていますが、私は他の人が重要だと思わない写真を集めています。例えば木の樹皮の写真。ですから新しい種類の樹皮を見るたびに、写真を撮らなければなりません。日本のマンホールの蓋の写真も集めています。とても美しい。ホテルのカーペットなども好きですね。あとホテルのベッドの写真も集めています。全て違っていて面白いんです。
早川:それは確かに少し奇妙なご趣味かもしれませんね。
ケヴィン:私もそう思います。でも、その奇妙さの中から何かが生まれるんです。私の知っている人たちの中には、美しい曲を作ったり作詞していたり、アートを創作したりしている人たちがいます。彼らのやっていることにはある種の「風変わりな」何かがあると思うのです。例えば、彼らは時間をかけて紙に小さな印をつけたり、何かを編んだりしています。スプレッドシートを作ったりもしているんです。普通の人はそんなことはしないでしょう。でもそれが彼らのアートや起業家精神を、あるいは科学を優れたものにしているんです。普通の人がしないことをするからこそ違ったことができるんです。そうして違った考えが生まれるんです。
何か新しいものを生み出すには、普通の人がしないことをやらないといけない。それを退屈だと思ったり面倒だと感じたりする人もいるかもしれません。でも、あなたが心からそれが楽しいのであれば、もっとそういうことをやるべきです。
早川:私も誰かと異なる考え方をすることはクリエイティブな生活を送る上でとても重要だと考えてきました。ですが、いっぽうで実際に奇妙な行動をとったり、あるいは風変わりであり続けることは口で言うほど簡単ではないと思うのです(笑)ひょっとするとこの質問自体が風変わりかもしれませんが、どうすれば私たちは風変わりな人になれるのでしょうか?
ケヴィン:How to be weird、それは私の次の本のタイトルにすべきですね(笑)
早川:それは良かったです。でももし次作の本のタイトルにするなら、(ネーミング料として)少しお金を払ってください(笑)
ケヴィン:そうですね、共同著者になれますよ。一緒に書きましょう(笑)そうですね、私たちはどうすれば風変わりになれるのか。たとえばだれでも子供の頃はどこか人とは違う面を持っていたと思うんです。でも、年を取るにつれてそれが失われていくんです。だから、もし私たちが大人になっても「風変わり」な部分を持ちたいのであれば、大切なのは「他人に自分がどうあるべきかを決めさせない」ことです。私たちはみんな元来「変わり者」なんです。だから、子供の頃にやっていたことを取り戻すことです。やりたかったことを取り戻すことです。あなたを幸せにするようなものを取り戻しましょう。時間を忘れるようなことをすることです。
やめたくない!と思うことにもっと時間を費やすべきです。そうしたものが、あなたの人生の中には何かあるはずです。小説を読むことだったり、電車に乗ることだったり、散歩だったり、何か他のことだったり。あなたの人生の中で、それにどれだけ没頭できるか、それをどれだけ実践できるかで、どんどん奇妙になっていくんです。
早川さんにとって、本当にやりたいことは何ですか?何をしているときに終わりたくないと感じますか?何が好きなんですか?
早川:何といってもインタビューすることです。大学卒業後、私は広島の新聞社で新聞記者としてキャリアをスタートさせました。でも幸か不幸かすぐに気づいてしまったんです。インタビューは好きだけど、記事を書くことがあまり好きでないことに(苦笑)その後、幸いにも自分のポッドキャストを持つことを思いついたんです。インタビュー番組ですね。これなら、書くことに苦心せずに、インタビューだけに集中するキャリアを持てるかもしれないと。
ケヴィン:それは素晴らしいですね。
早川:そうして20年近く前に私の事業の原型が生まれました。当時ポッドキャストはまだ一般的ではありませんでした。(アメリカと比べれば)日本は今でもポッドキャストはまだメジャーとはいえません。でも、そのおかげで(ニッチな分野だからこそ)私は自分の会社を経営できているとも思うのです。
ケヴィン:なるほど、それは確かに早川さんも奇妙な人生を歩んでいますね。私もインタビューはよくしますよ。パーティーで隣の席に座った見知らぬ人にもインタビューします。もっとも、子どもたちは私のそうした行動に困惑し、私のことを風変わりだと思っているようですが(笑)
私はこう思うのです。バスであれ、電車であれ、飛行機であれ、食卓であれ、誰でも自分の隣にいる人たちは、何かについて自分よりも多く知っているのではないかと。誰であれ、です。そして、私の仕事はそれが何かを見つけ出すことなんです。誰もが他のだれよりも知っている何かを持っているはずなんです。私はそれをいつも見つけ出したいと思っています。だから私もインタビューをするんです。彼らに自分が知っていることを話してもらうために。知らない人と隣り合わせに座っているとき、私は知っているんです。あなたは何かを知っている。そして、それを私と共有したがっていることを。私は質問を通して、その機会を引き出そうとしているのかもしれません。
早川:そういう意味では、ケヴィンさんにとって他者はみな「人生の教師」といえるかもしれませんね。
ケヴィン:その通りです。ですから、意見が違ったり、あまり好きではないと感じる人に出会うことももちろんあります。彼らはレイシストだったり、セクシストだったり、冷たい人だったりするかもしれません。でも彼らもまた私が知らないことを知っている可能性があると信じています。だから、彼らから学ぼうとするんです。
■ 読書と睡眠の哲学
早川:オリジナル版の91ページ、日本語版の191番目に「飛び抜けた人間になりたければ本を読め」とあります。ケヴィンさんの枕元にはいまどんな本が置いてありますか?
ケヴィン:旅行ガイドブックをいくつか置いています。ルーミーの詩集(『Rumi Poems Edited by Peter Washington』)もありますね。彼は12世紀のイスラム詩人で大好きなんです。あとはちょうど今読んでいる『ドミナンス』という本があります。宗教の発明について書かれている西洋の歴史の本です。
それからSF小説もあります。アンディ・ウィアーによる『プロジェクト・ヘイル・メアリー』です。彼は『火星の人』を書きました。それから......最近『 Co-Intelligence by Ethan Mollick』という本を読み終えました。現代のAIについて書かれた本ですね。今年出版されたばかりの本です。
私は主にノンフィクションを読みます。フィクションは車の中でオーディオブックで聴くことが多いです。
早川:何か理由があるのですか?
ケヴィン:私にとってフィクションは聴くほうが簡単に感じるんです。まるで、母に物語を読んでもらうような。物語を読むのは少し難しい。私はあまり忍耐力がないのかもしれません(笑)
早川:それは興味深いです。私はまったく逆で、枕元にはフィクションの本ばかりあります。物語を読むとすぐに眠くなってしまうため、おかげでとても寝付きがよいです(笑)いっぽうでノンフィクションの本は(インタビュアーという職業柄本業に近いので)とても頭と心がフル回転してしまい、寝るのがとても難しくなってしまうんです。その点について、(ジャーナリストである)ケヴィンさんは問題ありませんか?
ケヴィン:全く問題はありません。私のスーパーパワーの一つは睡眠ですから(笑)
早川:十分な睡眠をとるための秘訣は何だと思いますか?
ケヴィン:正しい親を選ぶことです。
早川:正しい親?
ケヴィン:正しい親を選ばなければなりません。つまり遺伝ということです(笑)。私は親から良い遺伝子を受け継ぐことができました。反対に妻は寝るのがとても難しい遺伝子を持っています。睡眠において、私はロボットのようだともいえます。私にはスイッチがあって、横になってスイッチを切るとすぐに眠れます。そして朝になると起きて、スイッチを再びオンにします。それだけです。
早川:ケヴィンさんは普段何時くらいに寝ていますか?
ケヴィン:深夜1時30分くらいです。
早川:1時半ですか!
ケヴィン:はい。そして7時30分に起きます。そして午後1時半に20分ほど昼寝をします。
早川:起床後はまず何をしますか?
ケヴィン:朝の散歩をします。40〜45分くらい。
早川:雨でも雪でも散歩をするのですか?
ケヴィン:ええ、しますよ。歩くのがとても得意なんです。何時間でも歩けます。この週末も毎日3万歩歩きました。
早川:3万歩ですか!?
ケヴィン:歩きながら誰かと話すんです。早川さんは興味があるかもしれませんね。私たち、日本でもやったことがあるんです。友達9人を誘って、毎日違う場所を歩いて回るんです。宿泊は旅館みたいなところでね。身軽に歩けるよう、デイパックだけ持って歩いて、大きな荷物は次の宿に送っちゃうんです。それで、1週間ずっと人々と話をして、夜はみんなで食事しながらおしゃべりを楽しむんです。1週間歩き回るんですが、要は会話がメインなんです。これを「ウォーク・アンド・トーク」って呼んでるんですよ。世界中でやってるんです。日本はもちろん、イギリス、タイ、中国、ポルトガルなんかでもね。
人と歩きながら話すのが、会話を楽しむ最高の方法なんですよ。何時間も一緒に歩くと、ちょっとした世間話から深い話まで、いろんな会話ができるんです。誰かと1週間歩いたら、その人のことをよく知れますよね。その人がどう物事に対処するか、どんな人柄かがよくわかるんです。だから、誰かを本当に知りたいなら、一緒に歩くのが最高の方法なんですよ。何時間も何時間も、小さな会話や大きな会話をします。1週間一緒に歩くとその人のことがとてもよく分かります。彼らがどのように物事に対処するかを見ることができます。だから誰かを知るためには一緒に歩くのが最高の方法です。
スティーブ・ジョブズも、人と会うときの有名なやり方があったんです。誰かがジョブズに会いたいって言うと、彼はこう言ったそうです。「じゃあ、一緒に歩こう」って。椅子に座って話すんじゃなくて、「いや、45分ほど一緒に歩きながら話そう」って言うんです。これってずっといい方法なんですよ。
だから今、誰かが私に会いたいって言ってくると、例えばサンフランシスコに来るから会えないかって連絡が来たら、こう返事するんです。「いいよ、2時に会おう。一緒に散歩しよう。丘を歩こうよ」って。
これが誰かと会う最高の方法なんですよ。
早川:あなたのおかげで新しいアイデアを思いつきました。歩きながらゲストにインタビューするシリーズを始めてみたくなりました。
ケヴィン:良いと思います!それはうまくいきますよ。実際それをPodcastで試した友人がいます。
早川:素晴らしいですね。
ケヴィン:本当に効果があります。
早川:そうですね、私もそう思います。
ケヴィン:小さなマイクがあれば完璧ですよ。RODEの「Wireless GO」というマイクがあって、本当にすばらしい音質です。
早川:ありがとうございます。とても興味深いです。というのも、私にとって歩くことや走ることは、瞑想のようなものだからです。一人の時間を持ち心の平静を深めるための手段になっているんです。でもケヴィンさんの場合はその反対で、他者とコミュニケーションを深めるための手段のようにも感じます。改めてケヴィンさんにとって歩くことは何を意味しますか?瞑想のためではなく会話をするためのものですか?他の理由も何かありますか?
ケヴィン:まず歩くことは実に興味深い行為だと思っています。二つの矛盾したことを同時に行うからです。心を空っぽにすると同時に、新しいアイデアももたらしてくれる。古い考えを取り除いて、新しい考えが入ってきやすくしてくれるんです。何か心配事があったり、考え事があるときは、歩きながら考えるのがいい方法なんです。
歩いているときと座っているときでは何か違うんですよね。足の動きや心臓の鼓動が違うからでしょうか。座っているときと比べて、歩いているときには違ったアイデアが浮かんできます。書くのが非常に難しいことがあるときには、私は歩きます。そうすると考えが整理されます。私は歩かないと考えを整理できません。座っているだけでは決められません。
体の構造が何か関係していて、歩いているときにはより良いアイデアが浮かびます。新しいアイデアが浮かびます。古いアイデアは消え去り、ストレスもなくなります。歩くことにはアイデアに関して非常に強力な効果があります。
■ 自己投資と知識探求の価値
早川:日本語版の463番目の言葉に「自分への投資に躊躇は無用だ。講座や研修のためにお金を使おう」「そのささやかな支出がやがて測り知れない恩恵を生む」とあります。ケヴィンさんがこれまでに受けた最高のコースやトレーニングは何ですか?そしてそれはいくらかかりましたか?
ケヴィン:いい質問ですね。そうですね、2つのことがありました。大学中退なんですが、友達と一緒にジョージア大学の科学研究室で働いていたんです。
そこにいる間、自分でお金を払っていくつかの講座を取りました。その中の一つが新聞ビジネスに関するもので、後にWired誌を立ち上げる時にすごく役立ちました。
早川:そうなんですね。
ケヴィン:新聞ビジネスの講座にいくら払ったか正確には覚えてないんですが、たぶん40ドルくらいだったと思います。それから後に、大学が提供してない講座を自費で受けたんです。「ダイアログ」っていう講座でした。ダイアログが何かって説明しないといけませんね。これはインターネットができる前の話なんです。
早川:インターネット以前。
そう、インターネット以前は、図書館にあるデジタル情報を検索できるサービスがありました。科学論文のタイトルとか、図書館の本のタイトルがカード目録にあって、タイム誌や新聞の記事が全文デジタル化されてることもありました。
ダイアログは、インターネット前のグーグルみたいなものでした。でも、検索するのにお金がかかったんです。1分で1ドルもしたんですよ。しかも1980年の話ですからね。今よりもずっと高額だったんです。今の感覚で言えば、1分5ドルくらいの感じかな。
早川:それは高い!
だから、検索はタダじゃなかったんです。質問1回ごとに5ドル払わなきゃいけなくて、答えも返ってくるのがすごく遅かったんです。だからダイアログの講座は、高額すぎるからこそ、上手に検索する方法を教えてくれたんです。全ての検索質問や追加質問を前もって書き出さなきゃいけなかった。今で言えばグーグルの使い方を学ぶ講座を受けなきゃいけないくらい高価だったんです。
1980年代、たぶん1982年くらいにその講座のお金を払ったんです。オンラインの世界に入るのに、すごく役立ちました。インターネットができる前でしたからね。だからインターネットが登場した時、私はもうオンラインの世界にいたんです。ダイアログの講座にお金を払ったおかげで、オンラインの世界では一歩先を行ってたんですよ。
早川:なるほど。当時と比べると今は何でも簡単に調べられるようになりました。でも、ちょっと疑問に思うんです。何でも簡単に調べられるようになったけど、実際には深く調べるのは難しいんじゃないかって。何かを深く調べるためのアドバイスを教えていただけますか?
ケヴィン:アドバイスはとてもシンプルです。「7の法則」と呼んでいるものです。
早川:新刊の中のフレーズにもありましたね!
ケヴィン:ええ。7の法則というのは、7回まで掘り下げる覚悟があれば、必ず答えが見つかるというものです。つまり、最初の質問をして「分かりません」と言われたら、「じゃあ、答えを知っているかもしれない人や、調べるべき場所を教えてください」と聞くんです。そうすると「ここにあたってみては」と言われるでしょう。でも、そこでも答えが見つからないこともあります。そこでまた「次は誰に聞けばいいですか?」「どこを調べればいいですか?」と聞く。そして3回目も答えが見つからない。でも7回まで続ける覚悟があれば、必ず答えにたどり着けるんです。
早川:なるほど。実際ケヴィンさんご自身今も「7の法則」を使っているのですか。
ケヴィン:もちろんです。今はAIを使って質問できますからね。ChatGPTを使う時にも当てはまります。一度で適切な答えが得られなくても、7段階まで質問を続けるんです。「それは求めていた答えじゃありません」とか、AIに話しかける。「それは信じられません。証拠はありますか?」とか「それは簡単すぎます」「これについてはどうですか?」「これは納得できません」って言って、7回まで追及し続けるんです。そうすれば、明確な答えが得られますよ。もし「分かりません」って言われたら、「書籍を調べてみてください」とか「古い新聞には何て書いてありますか?」って聞くんです。
最近でも、例えば「世界中で1年間に何曲の歌が作られているか」みたいな質問をしたんです。これはGPTに聞けるような質問ですが、すぐには答えが出ません。だからどんどん掘り下げていく必要があるんです。
早川:素晴らしいアドバイスですね。これなら(ダイアログの時代のように)お金をかけなくてもできそうですね。話題を少し変えますが、失敗や一見失敗に見えることで、後の成功につながったことはありますか?お気に入りの失敗はありますか?
■ 失敗から学ぶ価値
ケヴィン:そうですね、失敗にはいろんなものがあります。ある意味では、1年で中退したので大学で失敗したと言えるかもしれません。でも、それがきっかけで自分なりの教育や道を追求することにしたんです。アジアに行って、日本にも行きました。1972年のことでした。
早川:確かお父さまの友達の家に泊まられたんですよね?
ケヴィン:そう、父の友人は軍隊にいて、日本に上陸した最初のアメリカ兵の一人だったんです。当時の日米間の恐れと憎しみがどれほどのものだったか、今では想像もつかないくらいです。
アメリカ人が日本人をひどく扱ったこともあって、本当にひどい状況でした。父の友人が上陸した時、撃たれるかもしれない、襲われるかもしれない、何が起こるか分からない状況だったんです。でも彼は日本に恋をして、日本人女性と結婚しました。彼から日本の話を聞いて...1950年代、60年代のアメリカは、私が育った頃はとても狭い世界でした。
そう、日本の野球の話なんかも聞きました。父の友人は日本の野球が大好きで。それで、彼の友達を紹介してもらって、日本滞在中はその人の家に泊まることになったんです。それは私にとってある意味「世界最高の大学」でした。育ったニュージャージーとは全然違う世界でしたから。1972年といえば戦後そんなに経ってないんですよ。たった25年後ですからね。多くの面でとても伝統的で、私がこれまでいたのとは全く違う世界でした。毎日新しいことを学んで、考え方も変わって。理解できないことを見て、それが学ぶ意欲をどんどん加速させたんです。だからずっと学び続けていました。大学を中退したから、大学での「失敗」があったからこそできたんです。
■ 発明と学びの新たな形
早川:ところで、最近ケビンさんにとって何かアハ体験(ひらめきや気付きの瞬間)はありましたか?
ケヴィン:時々そういうのをメモしてるんですよ。ちょっと見てみましょうか。あ、こんなのがありました。誰かが「普段は発明だと思わないけど、(考えてみれば)すごくいい発明って何?」って聞いてきたんです。その時、私は気付いたんです。NetflixやAmazonで連続ドラマなどを見てるときに、「イントロをスキップ」っていうボタンがあるじゃないですか。
早川:ああ、はいはい。
そのボタンを押すと...これって史上最高の発明の一つだと思うんです。
早川:スキップ機能!(笑)
そう、イントロのスキップです。「ああ、なるほど!」これこそ素晴らしい発明だと。少なくとも1日1回は使っていますよ。YouTubeもよく見るので。
早川:へえ、そうなんですか?
ケヴィン:ああ、そうですよ。毎日2、3時間はYouTubeを見てますね。
早川:意外ですね。どんな番組を見てるんですか?
ケヴィン:主にものづくりの動画です。自分でも物を作るのが好きなので、人が物を作る様子をよく見てます。たまに旅行とか、人が新しいものに出合う様子も見ますけど、ほとんどは物づくりですね。プロが失敗から立ち直る様子を見るのが勉強になります。失敗して、そこからどう回復するかが分かるんです。
そこから物づくりについて多くを学んでいます。今はYouTubeのおかげで、すごいことが学べるんです。自分一人じゃ絶対にできないようなことも。
例えば最近、温水浴槽のモーターの軸受けが悪くなったんです。普通なら丸ごと交換するところを、軸受けだけ交換できるって知ってたんです。でも、やったことはなかったし、やり方も知らなかった。そこでYouTubeで方法を調べたんです。特殊な工具が必要だって分かったので、Amazonで注文して。YouTubeで教えてくれた工具を買って、自分で軸受けを取り外して、新しいのに交換しました。50年前の子供の頃だったら、こんなこと絶対に学べなかったでしょうね。
早川:そうですね。
ケヴィン:家族に機械工がいない限り、不可能だったでしょう。でも今は、私みたいな人間でも、どんな子供でも、世界中どこにいても、こういうことが学べるんです。すごい力ですよ。何だって学べる。手術だって、肉屋の技術だって、実験だって、YouTubeで何でも学べるんです。これってすごく重要なことだと思います。今の若い人たちは、学校よりもYouTubeで多くを学んでいるんじゃないでしょうか。
早川:そうかもしれませんね。しかし一方で、心配なこともあります...AIのおかげで、毎日見るコンテンツがどんどんパーソナライズされてますよね。そういう意味では、新しいコンテンツや何かとの「偶然の出合い」が起きにくくなっているんじゃないかと思うんです。これについてはどうお考えですか。
ケヴィン:そうですね、でも私はYouTubeのおすすめ機能をとても便利だと感じていますよ。新しいものを試すのも、そんなに難しくないと思います。検索するだけですからね。Googleで検索する代わりに、YouTubeで何か気になることを検索してみるんです。例えば、「もしローマ人が火薬を発明していたら?」とか「火星で生き延びるにはどうすればいい?」とか、何でも構いません。
YouTubeで検索すれば、面白くて多様な答えが見つかります。そのおすすめを見ていくと、今まで考えもしなかった分野にどんどん入り込んでいけるんです。
本当に良質なコンテンツに出会えますよ。私個人の経験では、YouTubeで新しい分野を探るのは難しくないです。確かに自分の好みに合わせたおすすめはたくさん出てきますが、ちょっと違うジャンルの動画を数本見るだけで、すぐに新しいおすすめが出てくるんです。
この間、変わったものを見てたんですよ。何だったかな...ああ、映画の出演者をどうやってキャスティングするかって動画でした。それを見ただけで、急に映画のキャスティングに関するおすすめがたくさん出てきたんです。
そんなに興味があったわけじゃないんですが、全く知らなかった世界が広がっていて。だから私としては、YouTubeで新しいものを探るのは難しくないと感じています。
これってすごく強力なツールだと思います。どんな興味があっても、例えばもっと上手にインタビューする方法とか、質問の仕方とか...
■ 現代社会の課題:ワーキングプアとUBI
早川:実はリスナーからたくさんメッセージをもらってるんです。その中の一つをご紹介しますね。
現在無職の女性の方からの質問です。こんな内容です。「Wired誌を読んでいました。笑ったり泣いたり驚いたりする、興味深い雑誌だと思いました。ところで、ワーキングプアについてどう思いますか?アメリカ、日本、韓国、フランスのワーキングプアについて読んで、衝撃を受けました。フルタイムで働いているのに生活保護以下の収入で、先進国で増加しているそうです。でもフランスでは家賃補助があるので、ワーキングプアでもローンや家賃が払えて、生活水準が上がります。でも他の国ではそういう支援がないので、大変な思いをしているそうです。これについてどう思いますか?」
ケヴィン:なるほど、この方が仰っているのはUBI(ユニバーサルベーシックインカム)に関連することですね。これは、政府や国民の税金で、最低限の食べ物と住居を心配しなくていいように、最低限の金額を支給するというアイデアです。
これは非常に強力なアイデアですが、完全に間違っているかもしれないし、完全に正しいかもしれません。何度も試してみないと分からないと思います。いろんな金額や条件で、たくさん実験をする必要があります。最近いくつかの実験が行われました。何もしなくても毎月1000ドル支給する実験と、50ドル支給する実験がありました。そして分かったのは、あまり大きな変化はなかったということです。
早川:そうなんですか!?
ケヴィン:そう、なかったんです。これは効果がないということかもしれないし、金額が足りなかったのかもしれません。分からないんです。考えているだけでは答えは出ないと思います。理論だけでこれが良いか悪いか決めることはできません。
実際に何度も実験してみないと分からない類の問題なんです。イデオロギーは関係ありません。リバタリアンでも、保守派でも、リベラルでも、これがいいアイデアかどうかは分からないんです。
実際に何度も、いろんな方法で実験してデータを集めないと判断できません。一回の実験では足りないと思います。
■ 人生の3つの重要な教訓
早川:ケヴィンさんにとって人生で最も重要な教訓は何ですか?
ケヴィン:そうですね、3つほど挙げましょう。まず最初は私の一番の教訓です。それは「親切である」ということです。私の本の中で、若い頃にはできるだけ多くの葬儀に行くべきだとアドバイスしています。亡くなった人たちの、できるだけ多くの葬儀に行って、そこで人々が何を話すかを聞いてください。彼らはその人が人生で獲得した賞、お金、業績についてはあまり話しません。彼らは主にその人がどんな人だったのかについて話すはずです。だから、最初の教訓は、有名かどうかではなく、親切であるかどうかだということです。
二つ目の教訓は、人生の目的は人生の目的を見つけ出すことだということです。いいですか?これは、ちょっとしたパラドックスのようなものです。つまり「人生の目的は人生の目的を見つけ出すこと」なんです。あなたの人生全体は自分の目的を見つけ出すための試行錯誤ともいえます。それに人生をかけて取り組む。ジェフ・ベゾスの話をしましょう。彼も自分の人生の目的を見つけ出そうとしています。私はそれを知っています。なぜなら、私は彼と一緒に散歩したことがあるからです。すべての億万長者、もちろんイーロンもそうです。彼らは皆、自分の人生の目的を見つけ出そうとしています。それが人生の目的です。
億万長者たち、イーロンだって、みんな自分の人生の目的を探してるんです。それが人生の目的なんです。
三つ目は、何かの「最高」を目指すのではなく、「唯一」を目指すということ。最高の人ではなく唯一の人になること。これはとても難しいことです。ハードルが高いんです。
早川:本当にそうですね。
ケヴィン:多くの人は自分が何が得意か分かっていないからです。だから人生の大半を、自分にしかできないこと、自分の特別な才能は何か、自分がなぜここにいるのかを見つけようとして過ごすんです。それを見つけるのに人生の大半がかかります。でも、人生の目的は最高になること。自分のベストを尽くすこと。人生の目的は、唯一無二の自分になることなんです。
■ 日本との深い繋がり
早川:本当にそうですね。心を打たれました。ところで、ケヴィンさんはこれまでに何度も日本に来たことがあるんですよね?
ケヴィン:はい、何回も来日しています。実は日本に親族がいるんです。日本には家族がいます。
早川:え!?そうなんですか?
ケヴィン:娘が日本系アメリカ人の男性と結婚しました。
早川:予想外でした。
ケヴィン:なので私には日本人の義理の母がいます。
早川:私は横浜に住んでいるのですが、横浜はわかりますか?
ケヴィン:ええ、今年横浜に行きましたよ。
早川:そうなんですね!差し支えなければ、今年の横浜の思い出についてもっと教えてください。
ケヴィン:そうですね、横浜にはこれまで行ったことがありませんでした。非常に商業的な場所だと思います。その日は一日、海岸沿いのエリアを歩きました。
早川:みなとみらいですね。
ケヴィン:ええ、大きな長い桟橋がありました。レンガの建物が並んでいて、高いところを歩いていました。とても良かったです。港の景色がとても美しかったです。もちろん、中華街にも行きました。横浜の中華街は非常に有名ですからね。便利な場所だと感じました。地下鉄システムが非常に便利でした。それが私の印象です。横浜以外でもたくさんの時間を過ごしました。例えば、紀伊半島や関西地域など。私は時々、日本が心配になります。人口についてですね。非常に懸念しています。非常に少ない人々しかいない町を通り抜けると……
■ 日本の未来への提言
早川:人口問題ですね。日本への懸念と言えば、このこともうかがってみたいと思っていました。今日の日本と未来の世界について考えると、もっともっと楽観的に生きることが重要になると感じます。ケヴィンさんのように。それはケヴィンさんの本で書かれていることです。私は、日本は常にリスクを考える国民だと感じています。おそらく、日本は元々、あらゆる種類の災害が多い国だからだと思います。もちろん、リスクを考えることは時には良いことです。しかし最近では、それが行き過ぎていると感じています。それが、明るい未来を描けない雰囲気をもたらしていて、未来に対する青写真が描けないと感じています。もしケヴィンさんがコンサルタントで顧客が「日本」だとしたら、どのようなアドバイスをしますか?
ケヴィン:そうですね、それは非常に難しい質問です。国全体の話ですから。どの国でも、特に日本でも人々の間には多くの多様性があります。一つ言えることがあります。これは非常に慎重に言わなければならないことですが、良くも悪くも合法的な方法で移民を受け入れる必要があります。正当な手段で行うことです。そして言語翻訳技術に期待しています。イヤホンを装着し、日本語が完璧な英語に翻訳され、私の英語が相手の耳に完璧な日本語として届くことです。そうすれば、世界中の人々が言語の壁を越えて、日本に住み参加することができるようになるかもしれません。それは日本を復活させる手段になるかもしれません。もし世界中から、特に若者たちが働きに来たら、日本の魅力を愛する人たちにとって、それは非常に住みやすい都市です。規則を守り、文化的なことをしようとする人々にとって、とても魅力的です。言語の壁も乗り越えられるかもしれません。それは日本にとって非常に大きな力になると思います。
早川:言語の壁に関しては、実はこのインタビューの前に、このインタビューのためにZoomのリアルタイム翻訳システムを試してみました。ケヴィンさんとのインタビューに備えてです。ですが、今はまだ実用的ではありませんでした。
ケヴィン:今はそうかもしれませんが、数年後には実用的になるでしょう。
早川:そうなんですか?
ケヴィン:私は中国へ講演に行く機会があるのですが、主宰者は以前は同時通訳者を使っていました。彼らは2人1組で働き、私の話をリアルタイムで中国語に翻訳しました。約20分以内、またはそれより少し短く、10分で彼らは交代します。しかし、昨年から彼らはAIを使用するようになりました。その技術の名前は「I fly tech」と言います。AIを使って、私の講演をリアルタイムで翻訳してくれるんです。字幕で表示されるだけで音声としては流れないのですが、良い感じでした。
早川:そのAIの翻訳は自然ですか?
ケヴィン:とても良かったです。精度は96%くらいでしょうか。だから、あと2年もすれば、リアルタイムで英語から日本語に翻訳してくれる。逆方向の日本語から英語への翻訳も2年あればできると思います。
早川:すごいですね。でもそれが実現したら、英語学習のモチベーションを保つのが難しくなりそうです(笑)。
ケヴィン:そうですね(笑)。でも、そんなことよりも何百万人もの日本人がグローバルな経済に参加できるようになることの方が大きいです。英語が得意じゃないけど他のスキルが高い日本人にとっては、これで彼らもグローバル企業で働くチャンスが生まれるんだから。これは本当にすごいことです。とてつもないことです。
■ AIと人間の未来
早川:それで、技術に関連して、人間ができてAIには永遠にできないことって何かあると思いますか?
ケヴィン:そうですね、まず最初に、永遠っていうのはあまりに長い時間ですよね。誰も永遠のことなんて分からないだろうけど、でも私たちが生きているうちにはAIにできないことがたくさんあります。今のところ、AIができないことの一つは、私たちの脳がどれだけ少ないエネルギーで動いているかってことです。AIにかかるエネルギーと比べて、人の脳のエネルギーは少ないです。AIは多くのエネルギーを必要とします。だから、ロボットが私たちのように考えて動くためには、それに必要なエネルギーをどうするかが大きな課題です。四分の一馬力で動かす必要がありますが、そんなロボットはまだ存在していません。
つまり、私が言いたいのは、私たちの体や心がとてもエネルギー効率が良いということです。私たちは、まだその何百万分の一にも到達していないんです。だから、コンピューターが最も賢い人間と同じくらい賢く、人間と同じくらい速く動けるようになるのは、私たちが生きている間には決して実現しないでしょう。これまでにない新しいことをできるようになるという、この機動性を持つことが、手を使ってそれを実現することです。私たちはそれを実現するにはまだ遠く及びません。それは非常に難しいでしょう。
そして、それはシリコンの問題ではなく、エネルギーの問題です。AIに必要なエネルギー量の大きさが原因です。AIはただそこにあるだけで、ほんの少しのカロリーでできると思うかもしれませんが、AIを動かすにはメガワットのエネルギーが必要です。例えそれを百万分の一に減らしたとしてもまだ足りません。だから、携帯できる心と体を成り立たせることは、とても不思議なんです。とても、とても非常に難しいことです。
もしかしたら、クラウドの中にあるAIが人間よりも非常に賢くなることはあるかもしれませんが、そのAIの動きは非常に鈍いでしょう。また、非常に動きが良いロボットもあるかもしれませんが、それらは非常に賢くはありません。両方を兼ね備えた賢くて動きの良いもの、それが「体」ですが、これは非常に難しいことです。私たちはまだ、それをどうやって実現するか、全く見当がついていません。
■ 最高のガジェットと100年後の未来
早川:ありがとうございます。ケヴィンさんは「ガジェットの神」とお呼びしてもよいかもしれません。ケヴィンさんにとって最高のガジェットは何ですか?もし、次の人生でもそれが持てるなら、何を選びますか?
ケヴィン:その前にまず、早川さんが持っている本は『ホール・アース・カタログ』ですね。それが私の最初の仕事です。『ホール・アース・カタログ』誌をつくる仕事場で働いていました。その本にはたくさんの道具が載っていて、道具に関する多くのレビューがありました。あの本が出版されたのはおそらく1979年頃でしょうか。その中でレビューされたツールの一つがパーソナルコンピュータでした。当時は電卓のようなものでしたが、私が来世でも欲しいと思う最も驚くべきツールはこれです(iPhoneを画面越しに明示して)。
早川:iPhoneですか!!
ケヴィン:これは魔法のようなものです。これは私が今まで持った中で最高のカメラです。私は50年間カメラを持ってきました。プロの写真家としての書籍も出しましたが、これは最高のコンピュータであり、これは奇跡です。驚異的な奇跡です。このテクノロジーには驚かされます。録画もできます。これは録音機のようでもあり、ビデオカメラでもあります。本当に驚くべきものです。もし50年前にこれを持っていたら、10億ドルくらいの価値があったでしょう。この技術の凄さは本当に驚くべきものです。人々はどれほど素晴らしいことか十分に理解していないと思います。
早川:もし20代のときにiPhoneを持っていたら、人生はどうなっていたと思いますか?
ケヴィン:若い頃は写真のことばかり考えていました。ですから写真に関して言えば確実に人生は変わっていたでしょう。この電話は私が今まで持った中で最高のカメラです。20代当時、私は500本のフィルムを持ち歩いていました。でも画像を見ることはできませんでした。暗いところでは使えなかったし、多くの光が必要でした。
GPSのおかげで迷子になることもなくなりますね。私はアジアを旅していましたが、両親への電話もなく、メッセージもなく、月に一度手紙を送るだけでした。月に一度ですよ。彼らからの返事も期待できませんでした。
今、私たちが持っている信じられないほどのギフトに、人々は気づいていないと思います。私は子供たちにインターネットがなかった頃の世界を説明しようとしたことがあります。質問に答えることができなかった世界を想像してみてください。しかし、人々は一日中、または若い子供たちが質問をします。50年前には、その質問をすることができませんでした。その質問に答えられる人はいませんでした。あなたの質問には何も答えが返ってきません。質問があっても答えがない世界を想像してみてください。誰もあなたに答えを教えてくれないのです。それが私の育った世界でした。でも今はどんな質問でもすぐに答えを得られる。これは本当に驚くべきことです。
早川:同感です。本当にそうですね。そういう意味では私自身も本当に恩恵を受けています。何しろ、iPhoneとPodcastがなければ自分の会社は絶対に生まれていません。最後の質問です。今取り組んでいるプロジェクトはありますか?
ケヴィン:私は『100年後の望ましい未来』というプロジェクトに取り組んでいます。これらはシナリオであり、100年後のAI、ミラーワールド、遺伝子工学に関する物語です。それは私が住みたいと思う世界です。それは、すべての技術とすべての変化を含んだ世界の絵です。でも、それは私が住みたい世界です。それは親しみやすく、私が望む世界です。その世界を詳細に描写しようとしています。軍事はどうなるのか?宗教は?食べ物は?100年後の世界はどうなっているのか?これは予測ではなく、私がこうなって欲しいと思う未来です。
望ましい未来を作るには、まずそれを想像する必要があると考えているからです。人々が住みたい未来を想像する手助けをしたいのです。未来を想像しなければ、その未来を作り出すことはできないと考えています。
早川:公開されるのが楽しみです。ケヴィンさんの活動をもっと知りたい場合は、どうすればいいですか?
ケヴィン:私のウェブサイトは「https://kk.org/」です。TwitterやInstagramなどのSNSでも、「@kevin2kelly」で検索できるはずです。SNSなどで私は自分が作ったものをシェアしています。
早川:ケヴィンさん、今日はありがとうございました。お話しできてとても楽しかったです。
ケヴィン:私も楽しかったです。これからも「唯一の存在」を目指して、そしてどうか「変わり者」であることも忘れずに(笑)。大いなる成功を祈っています(了)


