早川洋平エッセイ〈34〉
「何もしない」が未来をつくる
疲れがとれない。
土日祝日は基本的に休んでいるけれど、どうもコンディションがすぐれない。
考えてみれば怒濤の10カ月だった。
昨年12月に闘病していた父の容態が急変、
年末は徹夜で病院に泊まりこみ、年明けも厳しい状態が続いた。
あわせて心身ともにギリギリの母のフォローにも奔走。
家に帰りたいという父の希望を叶えるべく、
3月には訪問医療・看護・介護の完全介護体制をつくった。
ぼくたち家族も実家に泊まり込み、最期はみんなで父を看取った。
悲しみに浸る間もなく、葬儀やその後の諸手続きなどに追われ、
起業後の14年間でもっともハードな期間を送った。
そんなこともあり、ここ1、2カ月は仕事も巻き返さねば、
と力が入る日々が続いていたのかもしれない。
だが、それにしても心身がイマイチな状態が続く。
周囲から変人と言われるほど、日頃から健康に気を配っているぼく。
毎年受ける人間ドックでも異常はなかった。
さて、どうしたものか……
もし友人からこんな相談を受けたら、
「少し休暇をとったらいいんじゃないかな」と迷わず伝える。
読者のみなさんも同じではないだろうか。
しかし、これが自分のこととなると、なかなか難しい。
仮に「この日は休むぞ」と決めていても、いざ当日が近づいてくると、
遅れている仕事のリカバリーに使ったり、
インタビューやクライアントとのミーティングを入れてしまったり。
首尾良く死守できた日があっても、
「世の中の多くの人が今日も額に汗して働いているのに」とか
「自分の大好きなことを仕事にさせてもらっているだけでもありがたいのだから、
そんな贅沢をするな」とか……
ひとり罪悪感を覚えてしまい、結局働いてしまうことがほとんど。
思い切って読書や映画ざんまいの日と決めても、
気付けば仕事関係の作品ばかり触れている。
折衷案として「午前中は仕事。午後は何もしない」ことを試したが、
ひとたび仕事スイッチが入ってしまうと、何だか休んだ気がしない。
休もうとすればするほど、逆に疲れてしまう。
そんなスパイラルに入りつつあった8月下旬に迎えた北川八郎先生との番組収録。
リスナーからの人生相談よろしくぼくは北川先生に悩みを打ち明けた。
「半日だけ休むとか中途半端なことをしてはいけないよ」
やさしく説く先生に、「でもどうしても何もしないことに罪悪感を覚えてしまうんです。
特に平日に休むと、自分は怠けているんじゃないかって」と答えるぼく。
「その『何もしない時間』が未来をつくるんだよ。
それは経営者や起業家にとって仕事の一部と言ってもいい。
だから、よく休み、よく遊び、体はもちろん心のエネルギーも充足しなければならないんだよ。
その充足から生まれる『余白』があってこそ、いいアイデアが生まれるし、いい仕事もできるようになります」
これほど納得感があるアドバイスを誰かからもらったのは、いったいいつ以来だろう。
ぼくの中にある罪悪感はこれまでが嘘のように消えてなくなった。
いつも単純すぎる自分に辟易していたが、このときばかりはその素直さ(笑)に感謝である。
かくありて、実行に踏み切った「何もしない日」リターンズ。
ぼくは前から気になっていたゲルハルト・リヒター展を観に、
竹芝にある東京国立近代美術館に足を運ぶことにした。
これまで美術館の番組をつくらせてもらったり、多くの現代美術家にお話をうかがったりしてきたが、
正直にいえば、ぼくにとって現代アートはいつまでたってもほとんどがよくわからないものだった。
でも、このわからなさがありがたくもあった。
仕事で働きがちな「頭を使う」ことをあきらめ、作品を通してぼーっとすることができるから。
偉大な作家たちの作品をこんな風に活用してよいのかわからないけれど、
ある意味瞑想に近いかもしれない。
そんなわけで、かつては地元の横浜美術館に頻繁に足を運んでいたのだが、
コロナ禍の間に改装期間に入ってしまい、来年まで閉館。
昨秋訪れた森美術館を最後にすっかりアートとはご無沙汰してしまっていた。
そんな折に雑誌の記事で見つけたのが、(続く)
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